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商談の進め方に「型」はあるが、それだけでは成約は増えない

商談には基本的な流れがあります。ただ、その流れを覚えても成約率が上がるとは限りません。問題は進め方ではなく、商談で話した内容が担当者の頭の中にしか残らないことです。
「商談 進め方」で検索すると、アイスブレイクからクロージングまでの型や、SPIN話法・BANTといったフレームワーク、トークスクリプトの作り方といった記事が大量に出てきます。それらは間違っていません。ただ、社員5〜50人の会社の経営者が本当に困っているのは、型を知らないことではなく、商談の内容が担当者一人にしか残らず、他の誰も引き継げないことのほうが多いはずです。この記事では、型を簡単に確認したうえで、そこから先の問題に焦点を当てます。
商談の基本的な流れはどうなっているか
商談とは、商品やサービスの取引について、顧客の課題やニーズを聞きながら解決策を提案する話し合いのことです(Salesforceブログ、2025年8月更新)。一般的な流れは次のように整理されます。
- アイスブレイク(場を和ませる雑談)
- ヒアリング(課題やニーズを聞き出す)
- 提案(解決策を示す)
- クロージング(次のアクションを決める)
ヒアリングの段階で使われる代表的な型が、SPIN話法とBANTです。SPIN話法は「状況・問題・示唆・解決」の4つの質問で顧客自身に潜在的な課題を自覚してもらう方法で、電通ダイレクトの解説記事などで紹介されています(note/電通ダイレクト、2021年)。BANTは予算・決裁権・必要性・導入時期の4項目を確認する型で、優先順位づけに使われます(MiiTelコラム、2025年11月更新)。話す内容や順番をあらかじめ決めておく「トークスクリプト」も広く使われていますが、一言一句読み上げるものではなく、ポイントを押さえて自分の言葉に落とし込むためのものだとされています(makefri)。
オンライン商談か対面商談かで、これらの型自体が変わるわけではありません。ただ、オンラインでは表情や場の空気といった非言語の情報が伝わりにくく、通信環境に品質が左右されたり、気軽に設定できる分キャンセルもされやすいという弱点があります(jippou.co.jp、お名前.com、2025年3月更新)。実際、初回商談やクロージングのような重要な場面では、オンラインよりも訪問型の営業が選ばれる傾向があるという調査結果もあります(タナベコンサルティング、元調査2020年5月)。
なお、初回訪問でアイスブレイクを一切せず、席に着いてすぐ本題に入るスタイルのトップセールスの例もあります。事前調査と仮説があれば、雑談の効果はそれほど大きくないという見方です(キヤノンエスキースシステム)。「型は絶対にこの順番でやらなければならない」というものではなく、状況に応じて省略される部分もあるということです。
型を覚えても成約率が上がらない理由
ここまでの型を知っておくことには意味があります。ただ、型を導入することと成約率が上がることは、別の話です。
ベルフェイス社が2020年に行った調査では、オンライン商談を導入した効果として「移動コストの削減」(37.3%)や「リードタイムの短縮」(18.7%)が上位に挙がった一方で、受注率・成約率や売上、新規顧客の獲得については「変わらない」と回答した人がそれぞれ約7割を占めました(タナベコンサルティング)。つまり、進め方やツールを変えることで得られるのは、主に移動や時間のコスト削減であって、成約率そのものが自動的に上がるわけではないということです。
これはSPINやBANTといったフレームワークにも共通する話です。フレームワークは業界や商材によって適合度が異なる「型」であり、それだけで成約率が決まるものではありません。商談の型を整えることは土台としては必要ですが、それだけを追いかけても、結果が変わらないケースが多いということは、経営者として知っておく価値があります。
問題は進め方ではなく、商談の中身が残らないこと
型を整えても結果が変わらないなら、何が問題なのか。ここで見えてくるのが、商談の中身がどこに残っているか、という点です。
多くの中小企業では、商談は担当者に任せるしかない状態になっています。得意先の状況、過去に取引があって今は止まっている先、まだ取引のない見込み先の情報は、すべて担当者の頭の中にしかありません。担当者が辞めれば、その関係性そのものが会社から消えてしまいます。これは筆者自身が製造業の会社を12年間経営していたときに直感していたことです。営業は担当者に任せるしかなく、どの取引先が今どういう状況にあるのかは、本人以外には見えていませんでした。
同じ問題は他社でも起きています。従業員25名の製造業の会社では、営業担当者の商談メモが個人のノートに散らばっており、担当者が変わるたびに情報が失われるという課題がありました。AIで議事録を作るデバイスを導入し、商談後すぐに要約を案件管理システムに連携する運用に変えたところ、引き継ぎ資料を作る時間が月あたり約5時間減り、過去の商談履歴を検索しやすくなったという事例が報告されています(basic.gr.jp)。この数字はツール提供側に近いメディアの記事であるため、割り引いて見る必要はありますが、「商談の内容が個人のノートから会社の記録に移った」という構造の変化自体は、規模の小さい会社にも当てはまる話です。
議事録に消えている時間
商談の中身を残す作業、つまり議事録の作成には、実際にどれくらいの時間がかかっているのでしょうか。
キヤノンマーケティングジャパンが2022年に行った調査では、議事録・発言録の作成にかける時間は1週間あたり平均6.13時間、年間に換算すると約320時間にのぼりました。作成に負担を感じている人は67.2%、AIなどのサポートツールを使いたいと答えた人は72.6%にのぼる一方、実際に議事録作成の効率化が進んでいる現場はわずか1.4%だったとされています(エンジェルホールディングス、元調査2022年)。
負担を感じている人がほとんどで、使いたいという人も7割を超えているにもかかわらず、実際にできている現場が1.4%しかない。この差は、商談の型を学ぶ以前に、記録という作業そのものが後回しにされ続けてきたことを示しています。商談で何を話したか、どんな条件で合意しかけたか、次に何をすると言ったか。これらが担当者の頭の中とノートにしか残っていなければ、型をどれだけ整えても、会社としての営業力にはなりません。
商談の型より先にやること
商談の進め方を見直す前に、まず確認してほしいことがあります。
- その担当者が辞めたら、止まってしまう取引先はどれですか
- 同じ問い合わせや確認を、何度も社長自身が受けていませんか
- 商談の内容を、担当者以外の誰かが後から見られますか
これらに一つでも「はい」があるなら、商談の話し方や型を学ぶより先に、商談の中身を残す仕組みを整えるほうが優先度は高いはずです。手が空くこと自体が目的ではなく、記録を残す手間が減った分を、次の商談の準備や既存顧客のフォローに回せることが本来の目的です。
なお、AIで議事録を作る場合でも、日程や金額、担当者名などの数字はAIの出力をそのまま信じず、必ず人の目で確認することが推奨されています(web-tantou.com、2026年7月更新)。AIに任せれば全部解決するわけではなく、確認する作業は残ります。商談の型も、記録の仕組みも、道具を入れれば自動的にうまくいくものではないという点は共通しています。
よくある疑問
商談の基本的な流れ(型)はどこから学べばよいですか。
アイスブレイク、ヒアリング、提案、クロージングという流れや、SPIN話法・BANT・トークスクリプトといった型は、Salesforceブログや営業ラボなど複数の解説記事で紹介されています。まずはこうした記事で型の全体像をつかみ、自社の商材に合う部分だけを取り入れる形で十分です。
オンライン商談を導入すれば成約率は上がりますか。
ベルフェイス社の2020年の調査では、オンライン商談導入後も受注率・成約率・新規顧客獲得については「変わらない」と回答した人が約7割を占めています(タナベコンサルティング)。移動コストや時間の削減効果はありますが、成約率そのものが自動的に上がるとは言えません。
初回商談で必ずアイスブレイクをすべきですか。
必須ではありません。事前調査と仮説がしっかりしていれば、アイスブレイクを省いて本題に入るスタイルで成果を上げている営業担当者もいます(キヤノンエスキースシステム)。状況に応じて判断すればよい部分です。
商談の議事録はAIに任せてよいですか。
要約や記録の作成はAIに任せられますが、日程・金額・担当者名などの数字は人の目で必ず確認することが推奨されています(web-tantou.com)。記録の手間を減らす目的で使うものであり、確認作業自体をなくすものではありません。
この記事は、筆者が製造業の会社を12年間経営した実体験と、公表されている調査データに基づいて書いています。
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